万葉の森(53) 万葉植物

ヒガンバナ[万葉名:いちし]

いちしがなんであるかは古来より諸説があり、いまだに定説がありません。万葉集中一首しかないのにクサイチゴ、エゴノキ、ヒガンバナ、ギシギシ、ダイオウ、イタドリ、イチヒシバの七種の植物が登場しています。 いちしの場合、いちしの花に託して恋の思いを表した歌で、その手がかりの中心は「いちしの花のいちしろく」にあると言われており、いちしの花は白い花となります。クサイチゴ、エゴノキは当然合致します。ヒガンバナを除くと他の植物もどうにか白い花を咲かせてくれます。ところがヒガンバナにもシロバナマンジュシャゲが筆者宅には三十数年前から咲いており、万葉の森でも今年から咲いています。 むずかしい理屈はありますが、ハマユウのように限られた植物ではないので赤・白のヒガンバナ、クサイチゴ、エゴノキの三種を取り上げようと思います。そのうちエゴノキは「ちさ」と「やまぢさ」の出番があり、遠慮してもらってもいいと思います。

オギ[万葉名:をぎ・荻」

昨年までは蒼社川の湿地で写真を撮りましたが、今年からは万葉の池のすぐ上の田で見られます。オギはイネ科の多年草で高さニメートルぐらい。花時に茎の下部が露出し、花穂はふさふさ白い花を開きます。ススキは褐色。屋根葺材としますが、今治の場合まず取る人はおりません。ねざめぐさ・めざましぐさ・かせひきぐさなどと古来呼ばれていました。十月には白い花が咲いているでしょう。

ナツメ(くろうめもどき科)[万葉名:なつめ・棗]

玉掃(たまはばき) 刈来(かりこ)鎌麻呂(かままろ) 室(むろ)の樹(き)と 棗が本と かき掃かむため

長忌寸意吉麻呂(ながのいみおきまろ) 巻十六-三八三〇

「高野箒を早く刈って持つて来い。鎌麻呂よ、むろの木となつめの木の下を掃除するために」

玉箒・鎌・天木香(むろのき)・棗の四種、互いにあまり関連のないものを詠んで一首にまとめた一種の戯笑歌です。棗の音はソウ。早と掛けて早く掃くとの意味をこめています。 ナツメは樹高十メートルぐらいになる落葉子高木。葉には光沢があり、卵形。六月頃、淡黄色の小型の五弁花を開きます。果実は秋に熟し、暗紅色で食用。中国では五果(もも・くり・すもも・あんず・なつめ)に加えられています。昨年あたりから結実しはじめ、今年も三果なっています。ナツメの名は芽立ちが遅く、夏に入って芽が出ることによります。

マユミ(にしきぎ科)[万葉名:まゆみ(檀・真弓)]

万葉の森(17)で登場しましたが実がなりました。マユミは山野に自生する落葉低木ですが、ときには三メートル以上になります。雌雄異株で、秋になって熟する果実は四角形で淡紅色、これはやがて裂けて中の赤い種子を露出し、遠くから眺めると赤い花が咲いているように見えます。材はこけしや将棋の駒を作ります。紅葉が美しい木です。