万葉の森(39) 植物園づくり

四国地方の気象暦(財団法人日本気象協会四国支店発行)には、かなり古くから「四国地方平年梅雨明けの頃」として七月十七日を示しています。水やりに気を遣う季節になりました。

40 カクレミノ(うこぎ科)〔万葉名:みつながしは(御網葉)〕 集中 一首

カクレミノは六メートルぐらいになる常緑小高木、町内の山に入るとどこでも見かけます。和名カクレミノは葉が三つまたに切れこんで、みのを着た姿に見えるのでついた名前、みつながしはは先が三つに分かれた大きな葉をつけるというのでついた名前です。夏、枝の先に淡緑色の小花。古代人は大きな葉を神事・酒宴に使っていました。漆の代用として幹の液汁を、器具材として材も使っていたようです。古木になると切れ込みのない小さい葉ばかりになって見まちがえることがあります。

50 カワラナデシコ(なでしこ科)〔万葉名:なでしこ(瞿麦・奈泥之故)〕 集中 二十六首

万葉になでしことあるのは、今、カワラナデシコと呼ばれているもので、花期は七~十月、河原の土手などに多く生えているのでこの名があります。平安時代になると、中国からセキチクが入ってきたが、セキチクは早くから咲き、四季咲きの性質を持っているので、現在は多くの園芸種が栽培され、一年中花を見ることができます。秋の七草に詠まれているなでしこはカワラナデシコにしたいものです。
カワラナデシコは大きく仲びるので、摘芯を兼ねて挿し芽を採り、五~六月に挿し芽で、種子もよく実って発芽率も高いので実生(採りまき)で殖やせます。

54 クズ(まめ科)〔万葉名:くず(葛・久受)〕 集中 二十一首

山上億良が秋の七草を詠んだ中で、最も野性味のある植物で、古くから人間生活にかかわりがあり、根は頭痛・解熱剤に、花を二日酔い、茎を行李、編み物、葛布織に、花や黄葉を観賞にと万葉人に愛されたくずでしたが、現代の林業家にとっては旺盛な繁殖力のため強害草として嫌われています。これを逆に利用してハイウェイの壁面にからませて車の騒音を消すのに使われている所もあります。

70 サネカズラ(もくれん科)〔万葉名:さなかづら・さねかづら(狭名葛)〕集中 九首

別名ビナンカズラ(美男葛)は樹皮を水にひたしてねばり汁を採り、この液で頭髪を整えたことから名がつきました。サネカズラは町内の山道を歩くとよく見かける常緑のつる性の植物で、日陰に強く、生長も早く、半日日陰の地に適しています。生け垣に植えても見栄えのする植物です。

繁殖は実生、挿し木または取り木で、実生は初冬以降に熟した液果を採り、水洗して種子を取り出し、取り播きにします。翌年五月頃発芽します。挿し木は七月下旬から九月上旬に十五センチぐらい切った穂を挿し、翌年五月に床替えします。

88 スベリヒユ(すべりひゆ科)〔万葉名:いはゐづら(伊波為都良)〕 集中 二首

畑の強い雑草、葉、茎を食用にする。

93 セリ(芹)(せり科)〔万葉名:せり(芹子)〕 集中 二首

湿地に生える多年草、若葉を食用。

112 ニラ(韮)(ゆり科)〔万葉名:くくみら(久君美良)〕 集中 一首

臭気の強い多年草、葉を食用。

102 ツユクサ(つゆくさ科)〔万葉名:つきくさ(月草)〕

ツユクサは普通どこにもある一年草でしたが、最近は探さないと見つかりません。子どもと一緒に花を摺(す)り染、若葉は食用、乾燥して利尿剤、のど痛などに、臼で搗(つ)いて染料に用いたのでつきくさの名がつきました。

140 フジバカマ(きく科)〔万葉名:ふぢばかま(藤袴)〕 集中 一首

フジバカマは全草を利尿、香料、入浴剤、洗髪料に、花は観賞に使われましたが、県内には自生がなく、これによく似たヒヨドリバナが生花に使われているのをよく見かけました。昨年本物のフジバカマが入手できたので、株分け、挿し木などで増殖する予定です。

185 カンゾウ類(ゆり科)〔万葉名:わすれぐさ(萱草)〕

支那ではこの花を見て憂いを忘れるという故事があり、萱草を着物の紐に結び付けたり、垣根にたくさん植えたり、若葉を食べたりしたが何の効果もなかった。つまらない名前ばかりの忘れ草だとなげいている歌が集中四首のうち二首あり、残り二首もききめがあればよいがという願いを込めた歌で、万葉人の純情さがしのばれます。 中国産の萱草はないので、最も近いと言われるヤブカンゾウを植えています。