万葉の森(18) 植物園づくり

11 アジサイ [万葉名:あぢさゐ(ゆきのした科)]

紫陽花の八重咲く如く弥つ代にを いませわが背子見つつ偲はむ

橘諸兄 巻二十-4448

紫陽花が次々と色どりを変えてま新しく咲くように、幾年月の後までもお元気でいてください。この花を見るたびにあなたを思い出しましょう。

天平勝宝七年(七五五年)五月、右大弁丹比国人の家での宴で左大臣諸兄が詠んだ歌。
紫陽花は青い花が集まって咲くこと、集真藍(あづさあゐ)に由来しているとされています。上代から栽培されていたようです。歌も万葉時代に取り上げられていましたが、その後はほとんどあげられず芭蕉句でやっと現れてきます。流行の波に乗った花の一つであったかもしれません。
アジサイは落葉低木で、梅雨頃毬のような花が咲きます。観賞用。

114 ニワトコ [万葉名:やまたづ(すいかずら科)]

君が行き日長くなりぬ山たづの 迎へを往かむ待ちには待たじ

衣通王 巻ニ-90

わが君の旅はずいぶん日数が長くなった。今すぐお迎えに行こう。待ってなどとてもいられるものか。

軽太子(允恭天皇皇子)が軽太郎女(同母妹衣通王)と無理に通じ、そのかどで太子は伊予の道後温泉に流されました。この時軽太郎女は恋しさに堪えきれないで太子を追って伊予に向かおうとして詠んだ歌です。この歌には古事記から引用した題詞と日本書記から の引用として後住がついています。
やまたづはニワトコの古名で、枝や葉が対生しているところから「やまたづ」が迎えるの枕詞として使われています。落葉低木~小高木で幹には太い髄があります。寄木細工、木像嵌等に、七・八月枝を切り乾燥したものは利尿薬、腎臓炎、水腫の治療に、中国では接骨の治療に、花・葉は有毒で食べると胃腸炎を起こします。

118 ネズ [万葉名:むろのき(ひのき科)]

鞆の浦の磯の室の木 見むごとに 相見し妹は 忘らえめやも

大伴旅人 巻三-447

鞆の浦の海辺の岩の半に生えているむろの木、この木をこれから先も見ることがあればその度ごとに、行く時ともに見た妻のことが思い出されて、どうしても忘れられないことだろうよ。

天平二年(七三〇年)十二月、旅人が大納言になって京に上る時鞆の浦(広島県福山市鞆町の海岸)を過ぎて作った歌三首の中の一首です。
むろのきはムロ、ネズ、ハイネズの古名で、ネズは雌雄異株の常緑低木~小高木で別名をネズミサシといわれ枝葉をネズミの通路を防ぐのに用います。花は春咲き球果は二年目に熟し利尿剤に、材は床柱等の建築材に、またネズは土地がやせている禿山に多く見られ若木は種が虫に侵され見られなくなってきています。

175 ヤマハギ [万葉名:ハギ(まめ科)]

秋の野に咲ける秋萩秋風に なびける上に秋の露置けり

大伴家持 巻八-1597

秋の野に咲いている秋萩、この萩が秋風にたなびいている。その上に秋の露が置いている。

家持の天平十五年(七四三年)秋の歌三首のうち秋の字を四回も用い遊戯的に作られた歌。萩を詠んだ歌は一四一首、二位の梅の一二二首を大きく引き離しています。萩は秋の風物として庭に植えられたもの、野生のもの、かざしの花、匂う・女性的な・旅人・鹿・雁・露と萩など万葉人と深く係っていました。
萩は落葉性の草本状低木で我国だけで三十種以上、花は紫、紅、帯黄白、白色などがあります。ヤマハギは秋紫紅色をした小さい花をつけます。枝条は手工芸用(行李、箕、衝立、簾、隙子等に)、観賞用、切花用に広く植栽、やせ地荒廃地にも良く育つので緑化工用に、葉は家畜の飼料に、茶の代用に、根は婦人薬に、実は食用にします。