万葉の森(43) 植物園づくり

冬至も過ぎた十一月十五日、万葉の森に出かけました。筆者を迎えてくれたのはビナンカズラ〔万葉名…さなかづら・さねかづら(狭名葛)〕筆者宅で二十年余り育てた古木です。万葉人はこの木の樹皮を水にひたしてねばり汁を採り、頭髪を整えていたよ うです。雌雄異株の植物なので、実のついた蔓をとって挿し木で育てます。
春の発芽前に前年生の枝を十五センチ位に切り取り、露地に挿します。
冬の万葉の森で学習する相手を見つけようとやって来たのですが、冬越しの支度ができている植物はほとんどありません。
冬は、四季のうちで生き物にとって最も厳しい季節です。移動することのできる動物たちは、土や落ち葉の中にもぐったり、暖かい地方に移動することができますが、移動することのできない植物たちは大変です。地上部が枯れてしまう草の仲間は、種子で冬を越す一年草、ロゼット型の葉を広げて冬を越す越年草、根や球根などで冬を越す多年草などがあります。
万葉の森の木の仲間たちはどんなにして冬を越すのでしょう。落葉樹は葉を落として、枝の先や途中にいろいろ工夫をこらした冬芽を作って冬を越します。植物の種類によって葉の形が違うように、それぞれの種類によって、冬芽の形や働きも違っています。「冬は何も見るものがない!」という人たちには無用の森になりかねません。
春から秋にかけての樹木には葉や花・実などがあるので、その名前もある程度わかり、親しみも出てくるのですが、冬になると葉が落ちてしまって名前も分からなくなり、全く他人になってしまいます。樹木の種類によって葉の形や大きさが違うように、他の部分もそれぞれ違うはずです。木の形・枝の張り方・木のはだ・冬芽・葉こん・落葉などその木の独特のものが残っています。これらに目を向けて、楽しい冬の万葉の森の樹木の観察に挑戦してみませんか。
冬芽は小さいことや高い木の上にあるためにあまり興味がないかもしれませんが、高枝ばさみなどを用意して手に取って見ると自然の不思議さに驚かされます。
冬芽は落葉樹だけでなく常緑樹にもちゃんと用意されています。また、冬芽には鱗片のような保護組織を持たないで、小型になった葉がむき出しになっている芽(裸芽)もあります。万葉植物ではアカメガシワだけですが、オニグルミ、サワグルミ、ハクウンボク などもこの仲間です。