万葉の森(42) 植物園づくり

77 ジュンサイ〔すいれん科)〔万葉名…ぬなは(蓴)〕

わが情(こころ) ゆたにたゆたに 浮き蓴(ぬなは) 辺(へ)にも沖にも 寄りかつましじ

作者不詳 巻七-1352 万葉集中 一首

「わたしの心は沼に浮いているぬなはのように、ゆらゆらとして揺れ動くので、岸の方にも沖の方にも寄りつくことはないでしょう」と揺れ動く女心を草に寄せた譬喩歌です。

※印で入手困難としていましたが、池いっばいの自生地が見つかったので初めて取り上げました。
ジュンサイは別名ヌナワ(根茎が沼縄状)と呼ばれ、万葉名そのものです。世界に一属一種、日本全国特に寒地の湖沼に分布していましたが、生育水域の埋立てや水質汚濁などで急激に減少しています。二十五年前に刊行された山本四郎先生の「愛媛県産の植物」でもジュンサイの生育概量は六段階に分けて少ない方から二番目になっており、東予地区では新居浜市、丹原町、今治市桜井だけでした。ため池に生育するジュンサイ、ヒツジグサやタヌキモ類の適地は丘陵地の湧水(わき水)を集めた弱酸性の池となっており、貧栄養 型がよく水質汚濁にもっとも弱いと言われています。生育水域は水深一~二メートルの所がよく、水深五十センチが最低といわれているので、万葉の森には新しい池が必要になりました。

188 デンジソウ(でんじそう科)〔万葉名…はながつみ(花勝見)〕

デンジソウについては万葉の森<40>で触れていますが、シダの仲間なのでもう少し詳しく見てみましょう。胞子嚢ができてシダの仲間だとわかります。十月十日現在、毛のある硬い皮をかぶった胞子嚢が見えますが、成熟すると縦に二裂し、包膜でつつまれた胞子嚢が出て発芽する仕組みになっています。 夏緑性のシダで以前は水田や池沼などの泥に根を下ろして、一夜のうちに広がると言われるくらい繁殖力の強い雑草でしたが、除草剤を使い始めてから姿を消してとても珍しいシダになりました。冬には地上部が枯れます。

127ヒオウギ(あやめ科)(万葉名…ぬばたま(奴婆珠)(ヒオウギの実)〕

集中八十首も詠まれているのに花の美しさは一首も詠まれず、黒色で光沢が強いので昔からうば玉、ぬば玉と呼ばれ、枕詞だけに使われている変わった植物です。野生は一種類だけで、元気な植物です。七~八月の真夏に暗紅色の斑点のある黄赤色の花をつけます。現在、花材に用いられているヒオウギはダルマヒオウギという矮性品種で花色もいろいろあります。

94 センダン(せんだん科)〔万葉名…あふち(阿布知)〕万葉集 中四首(歌略)

センダンは落葉高木、平安時代には五月の節句に、ショウブやヨモギなどと共に用いられたり久江戸時代には刑場のまわりに植えられたりして愛される木、不浄の木になったりして現在はあまり見られない木になっています。「栴檀は双葉より芳し」は、私たちがセンダンと呼んでいる木ではなくて香木であるびゃくだん科のビャクダンで、産地は熱帯の乾燥地帯に野生している半寄生の常緑高木です。センダンはまったく香気がなく、 日本での当て違いです。

158 ムラサキ(むらさき科)〔万葉名…むらさき(紫・紫草)〕 万葉集中 六首(歌略)

六~八月白色の小花を開き、十月頃灰白色の光沢のある分果が熟します。実といってもよいのですが分果という学術用語を使いました。白い実を見ると実が二個ずつ付いているのがあります。一つの花に雌しべが二つ以上付き、うまく成熟するとその数だけ実(分果)ができます。ムラサキは四個の分果できる仕組みになっているのですが四個全部は熟さないので、一~二個が多いようです。分裂果ともいいます。